
通知が来ていないのに、なぜ見てしまうの?それ、もしかして『ノモフォビア』かもしれません。
あなたが朝起きて最初に確認するものは何ですか?
電車の中、食事中、寝る直前まで手放せないものといえば何ですか?
多くの人が『スマホ』と答えます。
社会の発展に伴い”それら”は私たちの生活の奥深くまで潜り込みました。今や、私たちの生活およびライフサイクルを形成する一部でもあり、現在進行形で人々の生活を支えているでしょう。
しかし、社会の発展には犠牲がつきものです。スマホは私たちの生活に大きく貢献する一方で、精神的、身体的に影響するマイナスの側面も存在します。
今回はそんなスマホに関する病『ノモフォビア』について紹介していこうと思います。
目次
Toggle概要
ノモフォビアとは「No Mobile Phone Phobia」の略称のことで、スマートフォンが手元にない・使えない状態になることで、強い不安やストレスを感じる”テクノロジー依存症”の一種だと考えられています。「Phobia:フォビア(恐怖症)」
あなたはトイレに行く時や仕事の最中など、少しの時間でもスマホが手から離れることに対して、不安感や緊張感を覚えたりはしないでしょうか?
ノモフォビアは軽度な症状では、イライラや焦りなど不安感、焦燥感などが見られ、重篤な場合だと動悸・発汗・吐き気などの多岐に渡る症状が確認されています
近年、特に若い世代やスマホを長時間使う人々の中で心の問題として注目されており、とある研究によると成人した人の約21%が「重篤なノモフォビア」、約71%が「中等度以上のノモフォビア」にかかっていることが確認されました。
ノモフォビアは現代に生きる人々なら誰でもかかる可能性があるものです。テクノロジーの発展に伴い、この症状は私たちにとって普遍的な症状になっていくでしょう。

ノモフォビア:症状
常にスマホを持っていない時の不安感
無意識にスマホをチェックしていませんか?
数分おきにポケットを触る。通知が来ていないのに画面をスワイプ、会話中や食事中でもスマホに手が伸びてしまう。
通知がなくてもSNSを1時間に何度も開いてしまうこと。これは「Checing Behavior(確認行動)」と呼ばれる強迫観念に近い習慣行動で、SNSが自己評価のバロメーターになっていることなどが原因の一つと言われています。
例:LINEの未読スルーや返信がないことを過剰に気にしてしまう、相手のメッセージに対する反応スピードなど。
他にも、SNSで通知が来ていないのにもかかわらず携帯がなったように脳が知覚してしまう現象、ファントム症候群(幻想振動症候群)などが存在します。
不安やパニックを引き起こす
スマホが近くにないと、今この瞬間何か重要なことが起きているかもしれないと思って不安になる。友達、会社、親からの連絡、それに対応できないと思うと落ち着いていられない。
パニックの主な症状としては心拍数の上昇や胸の圧迫感、交感神経の過剰反応、手足の震えなどが挙げられます。
10代後半〜20代前半は、アイデンティティの確立と他者承認が最重要項目です。スマホやSNSは、まさにこの時期の「他者からの承認」「つながりの確認」に最も簡易なツールであり、その喪失は「自己否定」や「見捨てられ不安」に直結します。また研究によると不安傾向の高い人ほどスマホが使えない状況で強い苦痛・不安が報告されています。
習慣回避的行動
回避行動とは「スマホを持っていない・使えない状況に陥ることの不安から逃れるために、特定の行動を反復する癖のこと」を指します。
例えばモバイルバッテリーを常備したり、電波状況を常に気にするなど。ノモフォビアの好スコア者はこのようなセーフティ行動を取る傾向が強くあり、回避行動の習慣化はさらに回避行動のループを招く悪循環を引き起こします。

なぜノモフォビアは起こるの?
FOMO
FOMO(Fear Of Missing Out)直訳すると”取り残されることへの恐れ”で「他人が自分よりもいい体験や重要な経験をしているかもしれない」という不安や焦りの感情のことを指します。
この用語はSNSの普及に伴い急速に広まり、今では心理学研究でも扱われる概念になりました。
スマートフォンは非常に高い常時接続性を持っており、現代の人々はスマホを利用することで物理的には一人でも常に誰かと繋がっている状態にすることが可能です。
しかし、高すぎる常時接続性は便利な反面、他者と常に繋がっていたい・他者と比較してしまう・情報を見逃すことへの不安、などの症状を引き起こします。
他人のキラキラした投稿は、自身の生活に焦りを生じさせ(比較感情)、情報へのアクセスの容易さは最新コラムを逐一チェックさせる強迫観念(見逃し不安)を生み出すのです。
このご時世、自分だけ置いて行かれていないか(FOMO)と感じやすい時代であり、それらを引き起こす最大の要因がスマホである限り、ノモフォビアが消えることはないでしょう。
承認欲求
ノモフォビアと承認欲求は深い関係があると言えるでしょう。
とくにSNSを通じた繋がりが日常化した現代では認められたいという欲求が、スマホ依存を引き起こす要因になり得えます。
いいねやメッセージを受け取ると脳内ではドーパミン、つまり快楽報酬系の神経伝達物質が放出されます。これはギャンブルや買い物依存、薬物などと同様に報酬のループを形成し、そのループを失った時に報酬の期待が裏切られ、ストレス反応・自己評価の低下を引き起こすのです。
1:承認欲求が強い→SNSで反応を得ようとする
2:投稿・返信・通知確認→スマホの使用時間増加
3:反応が確認できないと不安になる→スマホが手放せない(ノモフォビア)
4:さらに承認を求める(ループ)
またSNS特有の数字による承認欲求の数値化(いいね数やフォロワー数など)も、ノモフォビアを加速さる要因といえるでしょう。
アメリカの心理学者アブラハム・マズローは1943年にマズローの欲求段階説を提唱し、人間の欲求の動機づけを、ピラミッド型の階層構造(※下図1)として表現しました。
この理論では、人間は下位の欲求を満たすことでより高次の欲求を求めると説明されており、承認欲求は4段階目、社会的・愛の欲求を満たすことで求めるとされています。

図1:マズローの欲求段階説
心の拠り所・拡張自我
子供の頃、毛布やぬいぐるみを持つことで心理的に安心したり、ストレスが和らいだ経験はありませんでしたか?
スマホは大人にとってこれら毛布やぬいぐるみと似たような効果を持つのです。FOMO・承認欲求・社会との繋がりの代替手段。これらの心理的欲求を満たすスマホは、精神的安定を保つ道具として機能しています。
現代に生きる人々にとってスマホを持たないということは心の拠り所である毛布やぬいぐるみをもっていないのと同じ状態であるといえるでしょう。
また拡張自我といってスマートフォンが単なる道具ではなく、”自分の一部”として感じている心理傾向も伺えます。
拡張自我とは、人が所有物や使うものを通じて自己を表現し、それが「自分の一部」であると感じ現象のこと。
お気に入りの服や車、アクセサリーやSNSのプロフィールなど、それらがただの道具ではなく自分のアイデンティティの一部として感じたことはありませんか?
今やスマホは誰しもが所有しているものであり、多くの人が『スマホ=自分の一部』という感覚を持っているのです。スマホを持たないことは自分らしさ、つまりアイデンティティの一部が欠けてしまっているといっても差し支えないでしょう。
引き起こす社会的要因
社会的孤立
ノモフォビアと社会的孤立の関係は、一見すると無関係のようでいて、実は現代的な心理問題の根幹をなすテーマだったりします。スマホは繋がりの象徴でありながら人を孤立させる道具、繋がりたいという欲望がむしろひとを孤立させるパラドックスを引き起こす可能性があるからです。
SNS上では活発だが対面での会話は避けがち、友人と一緒にいてもスマホを見続けて目を合わせないなど。あなたの身の回り、もしくはあなた自身にそのような傾向はありませんか?
ノモフォビアの兆候がある人はSNSやメッセージを絶えずチェックしています。
これは社会と繋がっていたいという承認欲求、所属欲求の現れなのですが、それがリアルな対人関係の希薄化や、表面的なつながりを助長させることもあるのです。
スマホは孤独の緩衝材となる道具です。
孤独を避けるためにスマホを見ることで、孤独を感じる時間を減らすこはできますが、根本的な問題は解消されておらず、結果的にノモフォビアの強化につながります。
睡眠不足
ノモフォビアと睡眠不足には深く密接な心理学的および生理理学的作用があることが確認されています。
スマホが枕元にないと落ち着かない。寝る直前までSNSやゲーム、動画を見てしまう。他にも不安解消のためのスマホ利用など。
スマホはブルーライトと呼ばれる青い光が発せられており、この光が睡眠ホルモンである「メラトニン」の分泌を抑制します。そのため寝る前にスマホを利用することは体内時計を狂わし、脳の覚醒状態を維持した結果、睡眠不足を引き起こすのです。
またノモフォビアは、寝ている間でも「通知が来るかもしれない」といった、寝ている間の脳刺激(マイクロアラウザル)を発生させます。
睡眠不足はストレス耐性の低下、不安増加を引き起こし、さらなる睡眠不足を加速させるのです。
ノモフォビアの研究『NMP-Q』について

Exploring the dimensions of nomophobia: Development and validation of a self-reported questionnaire(ノモフォビアの構成要素の探究:自己報告式質問紙の開発と妥当性の検証)
著者:Caglar Yildirim(チャグラル・ユルディリム)Ana-Paula Correia(アナ=パウラ・コレイア)
掲載誌:Computers in Human Behavior, Volume 49, August 2015, Pages 130–137
概要(要約)
この研究では、スマートフォンが手元にない・使えないことに起因する不安であるノモフォビア(Nomophobia)の心理構造を明らかにし、測定のための自己報告式尺度(NMP-Q: Nomophobia Questionnaire)を開発・検証しています。
目的
• ノモフォビアの構成要素を理論的・実証的に明らかにする。
• 専門的で信頼性の高い尺度(NMP-Q)を作成する。
方法
• 大学生・成人を対象に複数段階でアンケート調査(約300人ほど)
• 探索的因子分析(EFA)と確認的因子分析(CFA)を用いて構成概念を抽出。
抽出された4因子
1. コミュニケーション不能への恐れ(Not being able to communicate)
2. 接続断絶への恐れ(Losing connectedness)
3. 情報アクセス喪失の恐れ(Not being able to access information)
4. 快適性の喪失(Giving up convenience)
結果
• NMP-Q は高い信頼性(Cronbach’s α ≈ 0.94)と妥当性を示し、国際的な研究にも転用可能な基準尺度として提示された。
• 特に若年層・スマホ使用時間の長い層ほどスコアが高い傾向が確認された。
インパクト
この論文は、ノモフォビア研究において最も引用されている基礎論文のひとつであり、
以後の心理学・教育・社会学・医療分野におけるスマホ依存研究の土台となっています。
Yildirim, C., & Correia, A.-P. (2015). Exploring the dimensions of nomophobia: Development and validation of a self-reported questionnaire. Computers in Human Behavior, 49, 130–137. https://doi.org/10.1016/j.chb.2015.02.059
• 値は 0〜1の範囲
• 高いほど、項目間の一貫性が高い=信頼できる尺度とされます。
『αの値 解釈』
0.90以上 非常に高い信頼性(優秀)
0.80〜0.89 高い信頼性(良好)
0.70〜0.79 十分な信頼性(許容範囲)
0.60〜0.69 やや低い(再検討が必要)
0.59以下 信頼性が低い(使用不適)
Yildirim & Correia (2015) のノモフォビア尺度(NMP-Q)は Cronbach’s α = 0.94とされ、非常に高い信頼性を持つと評価されています。
あとがき
スマホは便利な道具ですが、その便利さが私たちの心を縛ってしまうこともあります。
スマホを持たない不安ではなく、持たなくても平気な自分を育てる。それがデジタル時代の新しい心の育て方なのかもしれませんね。
参考
https://journals.lww.com/jfmpc/fulltext/2019/08040/nomophobia__no_mobile_phone_phobia.2.aspx
・Yildirim, C., & Correia, A.-P. (2015). Exploring the dimensions of nomophobia: Development and validation of a self-reported questionnaire. Computers in Human Behavior, 49, 130–137. https://doi.org/10.1016/j.chb.2015.02.059
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